
競走馬の育成:馴致のすべて
馬を人に慣れさせ、人の思い通りに動けるように仕込むことを馴致(じゅんち)と言います。野生の本能のままに生きる馬を、騎手の指示に従い、速く走ることを教え込む、競走馬の育成において大変重要な過程です。
生まれたばかりの子馬は、当然ながら人に乗られることに慣れていません。そこで、まず人に触れられることに慣れさせ、優しく声をかけ、恐怖心を取り除くことから始めます。徐々にハミや鞍などの馬具に慣れさせ、人の指示で歩く、止まる、曲がるといった基本的な動作を覚え込ませます。この段階では、馬に無理強いせず、馬のペースに合わせてゆっくりと進めることが大切です。焦りは禁物で、馬との信頼関係を築きながら進めていくことが、その馬の将来を大きく左右します。
基本的な動作を習得した後は、騎手が騎乗し、本格的な調教が始まります。速歩、駈歩、そして全力疾走へと段階的に進み、競走馬としての身体能力を高めていきます。調教は、ただ速く走らせるだけでなく、競走中の様々な状況を想定した訓練も行います。他の馬に囲まれた状況や、狭いコースでの走り方など、実践的な経験を積ませることで、レースでの対応力を養います。
馴致は、単に馬に乗れるようにするだけでなく、競走という特別な環境に馬を適応させ、その能力を最大限に引き出すための土台作りでもあります。これは馬の生涯にわたる学習と成長の連続であり、関係者の深い愛情と理解、そして粘り強い努力によって支えられています。馬が持つ本来の能力を最大限に発揮できるよう、関係者は日々馬と向き合い、その成長を見守っています。まさに、人と馬が織りなす二人三脚の道のりと言えるでしょう。